会社はすぐにO氏の二年分の源泉徴収票を用意した。内容はすべてデタラメである。振り返って考えてみると恐ろしいことなのだが、当時の銀行ローンは、サラリーマンの場合は二年分の源泉徴収票があれば、他にはなんの書類も必要なかったのだ。納税証明書すら必要なかった。源泉徴収票によるO氏の年収は、昭和六十三年分が一千百四十万円、翌平成元年が一千二百六十万円になっている。この二枚の徴収票を持ったO氏はさっそくローン審査を申し込む。
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申込先は三菱銀行。平成二年十二月二十一日には、三菱銀行神楽坂支店ローン業務センターより返済予定表が送られてくる。二枚の偽造源泉徴集票は、O氏に四千七百万円の借入れを可能にした。支払い期間は三十年、月々の支払い額は三十四万八千百五十一円である。O氏の銀行口座に四千七百万円が振り込まれた。当然、それは会社に渡るべきカネなのだが、実際に支払ったのは二千八百万円あまり。売り出し価格どおりでO氏が購入するはずもない。オーバーローン方式と違って、クレジット契約であるから債務はO氏がかぶるが、それでも多額の現金を入手できるメリットを考えてO氏は承諾したのだ。だが、仮に手元にいくら現金があろうと、表示価格より安くマンションを入手しようと、O氏の背中には四千七百万円のローンが重くのしかかった。このことだけは否定しようのない事実であった。