彼女に負けない長身の、はるかに年輩の紳士がトレンチコートを着こんで立っていた。そのときのふたりの美しさはいまでも目に焼きついている。彼女の肩からはらりとマントが片方落ちた。私たちに手を振った拍子に、どんなときでも決してコートを脱ぐことをしなかった彼女の、ことのほか華奢な体が顕わになった。彼はとっさにマントを彼女にかけようとするかと思いきや、そのあらわになった肩を愛しそうに大事にかかえ、がっしりとした手で引き寄せて彼女にキスをした。うわっ、と我々は感動した。コートの中の彼女を見て(部分だけどね)その細いドラマティックさに感激し、彼の仕種にさらなるドラマを見て陶然とした。コートとドラマが結びついた、正真正銘のドラマな一場面がそこにあった。ま、そんなわけで、私はコートに対しても思い入れが深い。どんなコートが欲しいかを考える前に、今年はどんなドラマかなあなんて考えてコートを選んだり。でもそんなドラマが毎年コートとともに訪れるはずもなく、コートと夢想ばかりなんだけれども。